蒲田駅から高架沿いの道を5分ほど歩いた場所にあるアトリエビル「HUNCH」。加藤智大さんの展覧会「徹虚 TEKKYO」を見るために訪れました。加藤さんは “鉄で鉄ではないものをつくる” アーティストで 展示されている作品はすべて鉄でできています。
まずは展示室入り口付近の足元に咲いていた作品「青い朝、黒の夜、鉄朝顔」。花がそのまま鉄に変化してしまったようなリアルさで 花びらを手のひらで握ればクシャっとなりそうです。鉄の色合いのせいかコンクリートの地面がよく似合います。
展示室の中心にはご本人が “「鉄で鉄ではないものをつくる」という自分の文脈の集大成” と表現された『鉄茶室 徹亭』。今回の展覧会には鉄茶室の他に 茶碗など全部で19の作品が展示されていたのですが 作品の数に比べていただいたパンフレットのテキストが多いなという印象を受けました。読んでみるとテキストは製作者ご本人によるもので 一つひとつの作品説明が読み物としてもおもしろいく 見て感じるだけではない楽しみ方ができました。
拙作の「鉄茶室 徹亭」は、二畳台目出炉下座床の草庵小間を写し、徹底して総てが鉄で作られた組み立て式の茶室である。また、茶室自体に留まらず配置される設えや実際に点前で使われる道具組に至るまでも総てが鉄である。
と紹介されている通り 茶室そのものはもちろん茶道具や壁に飾られた掛け軸、茶花まで すべてが鉄できています。そして今回の展覧会では 実際にこの茶室の中でお茶がいただける程茶イベントがあるということで 事前に予約をして参加してきました。
程茶イベントの時間になると躙口から茶室の中へ。躙口の枠が木から鉄に変わっただけで 頭をぶつけてしまわないかといつもより動作が注意深くなるから不思議です。鉄の茶碗に鉄の茶道具で点てられたお茶を製作者ご本人から受けとり お話を聞きながらいただくという贅沢なイベント。お茶と一緒に振舞っていただいたのは 本展のために “餅匠しづく” さんが作られたという『Fe』というお菓子。表面には鉄を表す炭素記号Feがあしらわれ なんと “鉄で鉄でないものをつくる” に違わず こちらのお菓子にも鉄の成分が含まれているのだとか。
最初に鉄の皿にのせられた鉄のお菓子を鉄の菓子切でいただき その後に鉄の茶碗に鉄の茶筅で点てられたお茶をいただくのですが 想像以上に茶碗が重く いつもの感じで手にとると驚きます。茶碗を口によせると温められた茶碗から鉄とお茶の香りがして どちらかというと鉄の香りを強く感じるおもしろい味わい。
今までなんどか茶室でお茶をいただく機会がありましたが 外の景色の美しさもあってほっと気を緩めることがほとんどでしたが すべての素材が鉄に置き換えられた鉄の茶室の中では 道具を手にするときや少し身じろぐ時ですら常に緊張を強いられる 今までにないなんとも不思議な体験でした。